EPISODE.1
“ありがとう” が
届いた日

手を握るイラスト

未熟だったから気づけた、児童心理司に大切なこと

 「今も元気でいてくれたらいいな」。そう願いながら、ふと思い出す笑顔があります。
 その子との出会いは、私が入職した2023年。児童心理司として児童相談所で働き始めた頃、ある園児の心理検査や面接を担当することになりました。気分の変動が激しい子だったので、入職1年目の未熟な私は、つい振り回されてしまい…。落ち着いて話すことが難しい子とうまく関われるだろうか、しっかり話を引き出せるだろうかと、最初は不安を抱いていました。しかし児童心理司にとって、相手の気分に左右されないことが大事。どんなときでも動じることなく、一貫性のある態度で接しようと心に決めました。こうして心理検査や面接を進めるうちに、その子の問題行動には過去の経験が大きく影響していることが分かります。

子供が走る画像

こどもの問題行動や心理検査から、心の内が見えてきた

 その子の情緒が不安定なのは、虐待のある環境で育ったことが大きな原因でした。怒られてばかりいた影響から、自己肯定感が低く、自信を持てずにいたのです。兄弟や保育園のお友達を引っ掻いてしまう問題行動もありましたが、わざと悪い行いをすることで、大人の気を引こうとしていたようでした。
 心理検査で把握できた特徴やその子に必要な支援を保護者にお伝えし、ご家庭で実践してもらったところ、こどもの問題行動が少しずつ改善へ。私もその子に対して「ちゃんとお話しできてるね。ありがとう」などの肯定的な声がけを続けるうちに、私への反応も徐々に変化が見られ、日常の何げない出来事や保育園で遊んだことを自発的に話してくれるようになりました。

子供が走る画像

あの笑顔を思い出すと、今日も頑張ろうと前へ進める

 数カ月の支援が終わった後日のこと。たまたま訪問した保育園で、久しぶりにその子と再会したのです。私を見つけた瞬間、元気に駆け寄ってきたその子は、とびきりの笑顔。初めて会った頃は泣き顔を見る日のほうが多かっただけに、きっと今は安心して過ごせているのだなとうれしくなりました。
 あれから月日が経過し、私は児童心理司として2年目に突入。なかなかうまくいかないケースも多いけれど、今でもあの笑顔を思い出すと、頑張ろうと思える自分がいます。児童相談所を利用するこどもや保護者から、「この人は話を聞いてくれる人」だと感じてもらえるように。そして、悩みや困りごとを話してもらえる存在になれるように。そっと寄り添う気持ちを大切にしながら、今日も私はこどもたちの安心と笑顔を願っています。

木々の背景画像